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傷(”失われる物語/乙一”より)<ネタバレ>

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『失はれる物語』(著:乙一)には8編の中短編が収録されています。

長くなりますので短編の一作品ずつ記事を分けて順に紹介しています。

前回の記事はこちらです。

  

take4box.hatenablog.com

 

 今回は『傷』について書いています。

 

 

<作品紹介>

初版は2001年で、原題は『傷-KIZ/KIDS-』となっており、『きみにしか聞こえない ~CALLING YOU~』というタイトルの短編集に収録されています。先に紹介したCALLING YOUと同じで、他の短編集でもCALLING YOUと傷はいずれもセットで収録されているようです。

後に2003年に『失はれる物語』がハードカバーで出版された際に、この作品も『傷』に改題されています。

2008年には『KIDS』というタイトルで映画化もされていますが、設定が大きく変わっているようです。

 

あらすじ

小学校の特別学級に編入させられた主人公。そこに転校生のアサトがやってくることになった。ある日、アサトには不思議な力があることがわかった。互いに孤独を抱えていた主人公とアサトが仲良くなるのに時間はかからなかった。

 

<ここからネタバレ>

 

父親に付けれたアザをからかわれ、小学校の同級生に暴力をふるったことで特別学級にいれさせられた主人公。

そこに転校してきたアサトがやってくる。

ある日、怪我をした主人公。それを見たアサトがぎゅっと傷を塞ぐように押さえると、主人公にできたのと同じような傷がアサトにもできた。アサトは他人の傷を自分の体に移すことができた。二人は家族がおらず他人と暮らしているという点で共通しており、すぐに仲良くなった。

 

アサトの力を何度も試しているうちに、アサトは相手に触れただけで傷を移せるようになり、またその傷を人に移すこともできるようになった。ただし傷は元あった場所と、アサトの体の同じ場所に現れる。

主人公は傷だらけになるアサトが嫌で、人から集めた傷の捨て場所として、今は病院で寝たきりとなり死ぬ寸前となっている父親を利用することにした。主人公は父親を憎んでいた。記憶の片隅に優しかった頃の記憶もあったが、それが本当の記憶かもわからなくなっていた。

傷の捨て場所を得た二人は、それからいろんな人の傷をアサトに移動させた。ただし傷を移動させる相手は、子供に限っていた。

 

ひょんなことから知り合ったアイスクリーム屋でバイトしているシホは、顔にひどい火傷の痕があり、それを隠すためいつもマスクをしていた。シホはとても優しく、2人は彼女のことが大好きだった。

シホの火傷の痕は、傷の捨て場所が見つからず、アサトの力で移動させることができないでいたが、ある日彼女がひどく落ち込んでいるのを受け、力のことを話してしまう。

シホは、3日間だけ傷を預かってほしい、と言い傷を移動させてもらう。

しかし、3日経っても彼女は戻らず、アサトの顔には醜い火傷の痕だけが残った。

 

日に日に落ち込んでいくアサト。意を決して、自分の父親に傷を移動させることにした主人公は、訪れた先の病院で偶々父親の死に遭遇してしまう。

あれほど憎んでいた父親が亡くなったのを知り、誰にも悲しまれることもなく死んでいった父親が哀れで、自分だけは悲しもうと思う主人公。これまでに父親に捨てた傷を自分に移すようアサトに頼む。しかしそれを拒みアサトは走り去る。父親の体に傷が無いことに気付いた主人公は、アサトは傷を捨ててなどいなかったことを知りアサトを追いかける。

アサトは病院ですれちがう人々の傷をどんどん引き取っていく。

病院を出たところで追いつく主人公。そこへ救急車がやってくる。

全身傷だらけとなったアサトは足の傷を主人公に移し、足止めする。そして救急車で運ばれてきた人の傷をも引き受けてしまう。

直後、死を目前にしたアサトに主人公は傷を半分自分によこせと言った。

 

結果、主人公に傷を移動させたことでアサトは助かるが、2人とも重症で入院となった。

ある日、病院を抜け出した主人公は、以前ゴミ捨て場にもっていった父親の荷物を探り、記憶の片隅にあった思い出の品を見つける。父親が優しかった頃の記憶は本物だった。

そして主人公は、最後に傷をわけ、生きてくれたアサトに感謝する。

辛いことは過ぎ去り、これからだんだんとよくなっていくと思えた。

 

 <感想>

アサトが病院の人々の傷を引き受けて走っていく場面には息が詰まり、強い焦燥感を覚えました。無垢で優しいアサトがなぜこんなに苦しまなくてはならないのか。

しかしラストシーンはすごく幸福に思えました。あまりハッピーエンドでもないかもしれませんが、『傷』の主人公は、これまで絶望の中に生きてきました。それがアサトによって救われたのでしょう。最後の一節は、辛い境遇の中に生きてきた主人公が語るには、あまりに前向きな言葉になっています。

 

あまり本筋とは関係ないかもしれませんが、主人公が父親との幸せだったころの思い出を語るシーンは感じるものがありました。

幼少の記憶とは判然としないものですが、そのときの楽しかったとか、悲しかったとかそういう感情は案外覚えているものだと思います。

私は息子にどんな思い出を残してあげられるでしょうか。

いつか思い出したときに、幸せだったと思える記憶をたくさん残してあげたいと思いました。

 

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今日もありがとうございます。またよろしくお願いします。